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【庶民列伝】(1)

2008-07-19 13:36:26


ウチの地区には、76歳(関西では【錦宝会】と呼ばれてます)の おっちゃんが
自転車に乗って聖教新聞配達してくれてますねん。

今日は、その方が代配をされている日やったし、
ワシは、5時半から草むしりしながら、家の前でお待ちしてましてん。

「いゃ〜、朝早くから草むしりか?感心やな〜ぁ!」と錦宝会のおっちゃんが登場。

「自転車、ギコギコいうてまっせ〜。大丈夫でっかぁ〜」とワシ、タオルで顔を拭く。

「ビンボー、ヒマなしや〜」

「なんのこっちゃ?」と思いながら手を振ると、錦宝会のおっちゃんは、次のポストに向かっていった。

しかし、しばらくすると、またギコギコの音が近づいてきた・・・。

「あんな〜、一部な〜、余ってしもうたんやけどな、アンタとこ、入れたかな?」
おっちゃん、ポケットからシワクチャになった地図を広げだした。

最初の一軒目から思い返しながら・・・
「ここ行った・・・ここのアパートは三軒配ったし・・・」
ワシはドロのついた軍手を外しながら地図を見る。

「アソコの路地の家は今月からやけど、入れた?」
「・・たぶん・・」

「あっ、それと、地区婦人部長のところはマイ聖教3やで」
「・・・そ、そうやったな・・・」

「よっしゃ!ワシは、ロールスロイス号で、路地の家に行くし、
おっちゃんは、地区婦人部長の所に行っといて〜」

おっちゃんは「音の鳴るベンツ号」で婦人部長宅に向かっていった。


本日の、京都の、ある街での一風景でした。



2008-08-02 20:12:24

みなさんは、あのキコキコ自転車の゛おっちゃん゛を覚えているだろうか?
そう、あの自称「ベンツ号」に乗って聖教新聞の代配をされている76歳・錦宝会の方のことである。

毎週土曜日は、その゛おっちゃん゛の代配の日である。
昨日の晩に電話した。
「あしたは8月配達の初日やし、一緒に廻りまひょか?」

このおっちゃんには、月末毎に、新しい配達先を記入した配達表と地図を渡している。
それを基に、ちゃんと新しい配達先の下見をしていることを知っているのではあるが・・・

ワシは最近、例え10点差で勝っていたとしても、「送りバント」のサインを出す
高校野球の監督の気持ちがよくわかるようになってきたのでる。

おおよそ、夏の高校野球は「負けたら、即、引退」である。
どんな猛暑にも耐えうる頑強な精神力があったとしても、
夏の連戦にも悲鳴を上げない肉体があったとしても、
「負け」のあとには試合がない。
三年間の努力も、一瞬の油断、一球の油断で、能力の開花さえままならない。

だから、高校野球に「楽勝」はない。
「楽勝」と思ったその次の瞬間に「敗者」となっていた、
そんな姿を見てきたからだろうか、
何点差で勝っていても、また、何点差で負けていても、基本に忠実が大事だと思う。


翻って「負けたらアカン」は師弟共戦・常勝関西の合言葉である。

負けていいはずの戦いなどあるはずもないのだが、
それでも「負けられない」という緊張感を持続させるのは、
どの世代であっても、いつの時代であっても、難しいことである。

「勝たなければならない」と言ってしまう悲壮感漂う責任者にはなりたくはない。
師匠のごとく「(責任感から)負けられなかった」が関西魂なのかもしれない。


カンサイで錦宝会を「年寄り扱い」したらどうなるか、骨身に沁みて知ってはいるが、
こちとらもゲンバで番を張っている、その責任者の一人である。
その鼻息の荒さで、76歳の先輩に対して失礼を承知での架電。
メンツと配慮。どちらも大事だが、さては錦宝会。
天秤がいずれに傾くや否や、緊張のひとときである。

「大丈夫やで〜。アンタに気の毒やがな〜。別にエエで〜。明日は寝ときなはれ〜。」

渋柿の木の中から、唯一甘い柿に出会えたような甘美なお言葉。
山奥で大いなる滝に出会えたような喜び。

しかし、魔というものは、人間達に沢山の甘い柿を用意しないのものである。
いや、甘い柿を奪い取って滝壷に陥れるのが魔の正体なのかもしれない。


昨日の京都は、古都・千年の歴史を持つ苔さえも枯らしてしまい、
また、日本の歴史を変えてきた数々の猛者たちの強靭な精神力さえも熔かしてしまう
そんな夜だった。


翌朝5時半には、例により家の前で草刈りをはじめた。
本日は、グラジオラスの花が初夏の役割を終えたので、その背の高い花茎を刈る。

6時を過ぎれば、キコキコと「ベンツ号」のいい響きがやってくるのだが、
今日はまだ聞こえない。

球根の根元にハサミを入れるその手に心臓の音が響いてきた。

6時15分、・・・ブルルル〜、キィッ!・・・ブルルル〜、キィッ!・・・
軒並みに京都新聞を入れていくスーパーカブのブレーキ音が先に遣って来た。

6時20分、犬を連れて散歩するおばさんと挨拶を交わす。

6時25分、いつもの朝の音の中に、いまだに゛おっちゃん゛の「ベンツ号」の音だけが聞こえないでいる。

6時30分、セミが一斉に鳴き出した時、ドロだらけの長靴をスニーカーに履き替え、
ワシは二本タイヤの「ロールスロイス号」を出動させた。


       つづく



2008-08-03 09:25:23

集配所から数えて、20軒目に位置する我が家なので、その逆順に見て廻った。

公園前の赤いポストに手を入れたが、新聞の感触がない。
12軒目の高級マンション入り口集配ポストは読売新聞だけが入れてあった。

「・・・もっと遡らな、アカへんなぁ〜」と国道の歩道を走行中、
ガニ股で自転車を漕ぎ、しかもタイガースの野球帽を被っている姿が見えた。
自然と笑みがこぼれる。
どいう言うコトバで茶化そうか考えながら近づく。
「そうや、パチンコが好きやったな〜」と思い

「おっちゃん、昨日の昼もパンクしてたけど、今朝もパンクやったんか?」と
言おうとした時、ワシのその相手は別人だった。

THのマークが入ったその帽子男は、一瞬だけ三白眼をこちらに向けたが、
口は真一文字にしたまま、ワシの隣を通り過ぎていった。

ワシは、どこか全く見知らぬ土地に来てしまったような孤独感を感じた。
そして、やり場のない怒りがこみ上げてきて、
前カゴ付「ロールスロイス号」に馬力を入れた。


集配所に着くと、そこには、我が配達地域分の新聞だけが取り残されていた。
時計を見ると、もはや6時40分過ぎている。
7時までに配達することが、忙しい現代の読者との約束である。

急いで部数を数え始め、前カゴに新聞を入れていると
その横に「休刊のお知らせ」のチラシもあった!

一軒目のマンション入り口には住民の自転車が横並びにしてある。
その横に停めて、ポストに新聞を入れて戻ると、
目の前で自転車が倒れる。新聞がこぼれる。他の自転車が将棋倒しになる。
そして、「休刊のお知らせ」チラシが風に舞う・・・。

全ての世界が灰色になった。
散らばったチラシを道端まで追っかけていき、
手が届こうとすると、また風に巻き上げられていった。
追っても追っても掴めないチラシ。
時間だけが空しく過ぎていく。
セミの鳴き声が、悪魔の笑い声に聞こえた。


        つづく



2008-08-03 17:32:54

転んだ自転車を一台一台と起こしながら、おっちゃんのことを考え続けていた。
緊張の汗で一気に濡れたTシャツは、ワシの地黒の皮膚を浮き上がらせていた。

ひと段落つき、山賊に被っていたタオルを解き首筋を拭くと、爽やかな風と仲直りした。
そして、頬を風神のように膨らませ、息を整えると「ロールスロイス号」が全快した。

畳屋さんはもうシャッターが開いていた。
ポストは一般紙が取られていた後だった。
心の中で題目を唱えながら聖教を入れた。

三国志展のポスターを貼ってもらっている書店のおばさんは路地に打ち水をしていた。
ワシの後ろから大きな声「お・は・よ〜!」と、驚かす。
笑顔になったおばちゃんから、ヒシャクの水を少し投げられ、次のポストに向かった。

スナック「信子」の分厚いドアからは、カラオケの音が漏れ聞こえてきた。
あっ、そうか、昨日の晩は花の金曜日やったな。
「残業、ご苦労はん」と呟き、ドアに挟む。

高層マンションのエレベーターは、もう7時を過ぎていたから
なかなか降りてこなかった。

次々に聖教新聞を入れながら、朝は30分も違えばこんなにも「風景」が違うものか
と感心し、そして申し訳なさの思いの中で配り終えた。


我が家分の聖教新聞を脇に抱えながら、電話をした。
おっちゃんは、やはり出ない。不安が高まる。

76歳の゛おっちゃん゛の住居は、我が配達地区以外なので、少し離れている。
すぐ近所の地区婦人部長に取り急ぎの訪問を頼もうとした時に、おっちゃんが受話器を取った。

「お〜っ、もう7時30分か?昨日はアツ〜て寝られヘンかってん。」

「御身体が一番大事だす。熱射病になってまへんか?」

「夜中にな、何回も起きてもうてな、それで水飲んで寝てたから大丈夫や。
 けど、すまなんだなぁ〜。配達してくれたんか?」

「いえいえ、こういう時のフォローのためにワシがいますんやさかい、大丈夫でっせ」

まずは、76歳の先輩がご病気でなくて、なりよりでした。


「それはそうとな、8月31日は教学の日と日程に書いてあるけどな、
8月の大白蓮華にはな、教学の日で講義する箇所が載ってないのとチャウか?」

「えっ?あの〜。調べますワ。」

この76歳の錦宝会さんは、教学の日には御書講義もしてくれます。

こういう方々を「国宝」だと、讃えてくださったのが、ワシらの師匠だった。


                      庶民列伝:(1)了




 
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